「あにぃ、大丈夫かなあ...」
衛が心配そうに大きな扉を見上げる。
「大丈夫です。兄君様はそんなやわなお方ではございません」
すかさず春歌が言葉を返す。
二人の目の前には、高い階段の上に大きく頑丈そうな扉があった。
ここはベベル寺院・祈りの間。
扉の向こうには祈り子と、それと精神感応を試みる
従召喚士である、衛と春歌の兄がいる。
今日は大事な試験の日。
祈り子との感応に成功すれば、晴れて召喚士となれるのだ。
兄には、衛と春歌を含めて12人の妹がおり、
ベベルにある大豪邸で13人で仲睦まじく暮らしていた。
然し、最近になって、その幸福な生活を脅かすものが現れた。
大いなる災厄...『シン』の復活である。
どこからともなく現れ、誰も立ち向かえない力をもって
無秩序・無差別に破壊の限りを尽くす魔獣・『シン』。
『シン』を倒すことができるのは召喚士のみ、
それもただの召喚士ではない。
最果ての地・ザナルカンドに眠る『究極召喚』を身につけた召喚士のみが
『シン』を倒すことができるのである。
そう、『シン』を倒し、幸福な生活を取り戻すために、兄は召喚士になろうとしているのだ。
扉がゆっくりと開いた。
奥から、優しそうな顔をした青年がゆっくりと歩いてくる。
疲れたような、しかし喜んでいるような表情を浮かべて。
階段を下る途中でよろめく。
春歌が飛び出して支える。
衛が声をかける。
「あにぃ! 大丈夫?」
一瞬、沈黙が走る。
「...大丈夫だよ、衛、春歌。僕、召喚士になったよ...」
ゆっくりとそう言うと、兄は眠るように春歌の胸に倒れ込んだ。
「兄君様!」
「すぅ、すぅ、すぅ...」
「大丈夫。あにぃは寝てるだけみたい。...よかった。」
「...そうですね。
しかし、これで兄君様が召喚士になってしまわれたかと思うと、
私にとってはめでたくもあり、めでたくもなし...」
「...うん、わかるよ春歌ちゃん。
なんせ、これからあにぃは、死ぬかもしれない旅に出なくちゃ
いけないんだからね...」
ザナルカンドへの道は険しい。
ただザナルカンドへまっすぐ向かうだけでも大変なのだが、
それだけでは究極召喚は身につけられない。
スピラ――この大陸――の各地の寺院を回り、
各地の祈り子と感応して力をつけなければ、
究極召喚をその身に宿すことはできないのだ。
そのために、召喚士はひとりでは旅をしない。
『ガード』と呼ばれる、身辺を守る者を連れていくのだ。
その人数についてとくに規定はないが、
定例的に二人が標準となっている。
兄が召喚士になると妹たちに告げたとき、
妹たちはこぞって、ついていくと言い出した。
しかし妹たちのなかには病弱な子や泣き虫もおり、
生死のかかった旅にはとても連れていく気になれず
一時は難色を示したが、妹たちの決意は固い。
結局兄は、妹のうち最も力の強い二人・春歌と衛を
ガードに選んで連れていき、あとの10人は留守番とした。
翌朝。
兄が旅立つ時が来た。
「必ず帰って来てね、お兄ちゃん!」可憐が心配そうに言う。
「花穂はお兄ちゃまを応援してるよ!」花穂が飛び上がって励ます。
「お兄様、帰ってこなかったら、許さないんだから...」咲耶が斜めに見つめる。
「いってらっしゃ〜い、おにいたま〜!」雛子が手を振る。
「兄上様、無理はしないで下さいね...」鞠絵が笑顔を作る。
「にいさま!姫のお弁当食べてくださいですの!」白雪が黄色い声を出す。
「アニキのあったかーいお土産、待ってるよっ」鈴凛がにかっと笑う。
「......行くんだね、兄くん......」千影が静かに語る。
「兄チャマならきっとできるデス!」四葉が勇ましく言う。
「兄やがいないと淋しいの...くすん」亞里亞が薄涙を流す。
兄が別れ際の言葉をかける。
「心配しないで、僕のかわいい妹たち。
僕は必ず、シンを倒して帰ってくる。
だから、笑顔で見送っておくれ。
そして、待っていておくれ。
...いってきます!」
「さあ、行きましょう、兄君様!」
「あにぃ!もたもたしちゃだめだぞ〜!」
「よーし、行くか!」
こうして、新しい召喚士と、二人の妹の旅が始まった。